gzmlhzmkwq7w3の日記

 自分の趣味とか雑感その他を、気が向いた時に書き連ねる予定です。【2023/12/20追記:昨今の問題について筆者のスタンスを書きましたので、ブログトップに表示しています。】

ACジャパンの2022年度キャンペーン広告について語りたい

 このブログで触れたことはありませんでしたが、今の仕事をしていなければ広告の製作に携わりたいと思っていた時期が筆者にはあります。そのきっかけは、小学生時代に見た公共広告機構(現:ACジャパン)のテレビCMでした。
 現在よりセンセーショナルな表現を用いて社会問題を啓発する映像群は当時の筆者にとってかなり衝撃的だったようで、あまり褒められたものでもありませんが中高生の時には公式ホームページに入り浸ってアーカイブを見まくる休日を過ごしたこともありました。

 そういうわけで今年7月に始まったACジャパンの2022年度キャンペーン広告について、筆者なりの感想を書いてみました。あくまで専門的な勉強を一切していない一個人の雑感としてとらえていただければと思います。クリックするとACジャパン公式の広告紹介ページに飛びます。各キャンペーンの説明は同じくACジャパン公式ホームページを参考にしました。

2023/7/1追記:本日ACジャパンの2023年度キャンペーンが開始しました。このため当記事のリンク先は2022年度ではなく2023年度のキャンペーンになっています。ご了承ください。

 早速いきます。

 

 

全国キャンペーン

社会問題をテーマに制作し、全国のメディアを通じて発信する取り組みです。

寛容ラップ

 ラップというかポエトリーリーディングというか、バトらないMCバトルのような気も。強面なお兄さん側からだけでなく、お年を召したご婦人側によるアンサーもきっちり収めることで「たたえ『合おう』」というメッセージをしっかり伝えています。テレビで流れているのは15秒版が多いですが、30秒版や公式ホームページで視聴できる60秒版にはさらなる展開があるので是非ともチェックを。

バッターボックスに立つ87歳

 何かを始めるのに遅すぎることはない、というキャンペーン。テーマは「年齢にとらわれない生き方を」のことですが、人生のハードルになるのは年齢だけではないことを考えると、「自分の未来にフタをしないこと」という若宮正子さんの台詞はあらゆる世代へのエールにもなるのかなと。惜しむらくは「寛容ラップ」にあった手話表示がないことですが、その代わりに日本語と英語の字幕があるのは良いことかなと思いました。

 

支援キャンペーン

 公共福祉に取り組む非営利活動団体の活動を、ACジャパンの広告枠を用いて発信する取り組みです。

HELLO 地域猫! - 日本動物愛護協会

 ハローキティ地域猫のまさかのコラボレーション。キティさんと同じく太めの線で描かれた地域猫のオリジナルキャラクターを含め、全体的にほんわかした仕上がりの広告になっています。テレビCMのサムネイルの「猫!」のフォントが可愛らしいのも良いですね。

おかあさんも、治るかな。 - 日本骨髄バンク

 ACジャパンの支援キャンペーンに長年名を連ねている団体の1つである日本骨髄バンク。これまでは骨髄提供を受けた元患者やドナー、支援を行っている著名人を取り上げたキャンペーンが多く、今回の「患者さん以外にドナーを待つ人」という切り口を設けたのは参加歴の長いこの団体らしいなと感じました。

若いうちから、腎臓検診 – 日本腎臓財団

「未来の自分自身による注意喚起」というスタイルは公共広告に時々見られます。今回は架空の人物であり作中で年齢を重ねている島耕作さんの特徴を活かしたキャンペーンに仕上がりました。テレビドラマで島さんを演じていた俳優・宅麻伸さんの声の使い分けも聴きどころ。

最初の一粒 - 国連WPF協会

 テレビCMの15秒版で初めてこのキャンペーンを見た方は、ぜひ公式ページに掲載されているCM紹介のラジオCM書き起こしを見ていただきたいです。ちょっと苦言っぽくなりますが、日本と世界の食の対比を描くという狙いが、テレビCMの15秒版や新聞広告だとその前段階で引っかかってしまってうまく伝わっていない気がしてならないんですよね。限られた条件で意図を適切に表現する難しさを考えさせられた1本でした。

またお父さんと – あしなが育英会

 親を亡くした子どもの実際の言葉、親と過ごした実際の場所で撮影した映像を使用したキャンペーン。字面だけだとセンセーショナルに映りますが、キャンペーンそのものは構成の丁寧さが際立つ前向きな作品に仕上がっています。

大切なものを見続けるために。 - 日本眼科医会

 日本眼科医会が支援キャンペーン入りしたのはおそらくACジャパン初。恥ずかしながらなぜ緑内障の発見が遅れやすいのか知らなかった筆者は、視野が欠けていくのをパズルのピースで表現するのは実情に合っているのか疑問に思っていましたが、キャンペーン開始の7月1日に日本眼科医会ホームページの「お知らせ」に掲載された「緑内障ってどんな病気?」という解説文が分かりやすくて勉強になりました。ACジャパンの広告紹介ページの「日本眼科医会のサイトを見る」からすぐ探せますので、皆さんもどうぞ。

I am a child – プラン・インターナショナル・ジャパン

 こちらもACジャパンの支援キャンペーン入りが初めての団体です。児童婚の現状をシンプルな文章で示すことで、世界の子供たちが置かれている現状にまず関心を持ってもらう。支援キャンペーンの初手としてインパクトの強い作品になったのではないでしょうか。

 

地域キャンペーン

 全国7地域がそれぞれ抱える問題からテーマを設定し、各地域のメディアで広告を展開する取り組みです。かつては東京も含めた8地域のキャンペーンでしたが、現在は上記7地域。「名古屋」「大阪」は筆者の経験上それぞれ中部地方近畿地方で流れています。皆さんがお住まいの地域はどの作品が流れているでしょうか?

わたしは、アイヌ。 - 北海道

 人それぞれの持つ自分らしさを育む、民族や文化の多様性をテーマにしたキャンペーンです。蒸し返す意図はありませんが2021年に日本テレビアイヌ民族に対する差別表現が放送された事件がありました。今年度の地域キャンペーンはすべて2021年度の続投作品であり、したがってこのキャンペーンが公開されたのも2021年でした。多様性を認めあうこと、個性を尊重しあう世界への共感を広げること。北海道から全国へ放送されてもいいのではないかと思います。

とうほく6健!お祭り体操 – 東北

 東北地方は背が高くて細身の人が多いというイメージがあったので、小中学生の肥満率が全国平均より高い傾向にあるのは個人的に意外でした。直近3年間に中止になった各地の祭をモチーフに入れることで、健康増進と郷土愛の2つのテーマを両立させた一石二鳥のキャンペーンです。あと、テレビと新聞では体操で、ラジオCMでは口の体操になっているという、媒体の特徴を活かした展開も上手いなと思いました。

想い鶴 – 名古屋

 他者を思いやる気持ちを実際に形にしてつなげていけばこんなに大きくなれる、という壮大な映像に仕上がっています。新聞広告の説明文が折り鶴を開いた紙になっている芸の細かさにも注目。
 個人的に名古屋地域キャンペーンといえばちょっとショッキングなくらいに交通安全を啓発するイメージがあったのですが、実際はそこまで種類は多くないんですね。どうも2016年度の「横断歩道で奪われている」や2005年度の「Shall we drive?」の印象が強すぎたようです。公式アーカイブが残っていれば皆さんにも見ていただきたかった。

お金の話はゆ~っくり – 大阪

 ナレーションと歌を兼務する渡部陽一さんの声質とBGMも相まって、どこかコミカルで癒し系な仕上がりのキャンペーン。しかしながら「悪い詐欺師は急かしてダマす」、「じっくり検討、しっかり確認、まわりに相談」という具体的なポイントがしっかり盛り込まれているので、大きな見出しやフックにだけ注目せずにご覧あれ。

いのちを守る切り札 – 中四国

 住民の意見を反映させた「災害・避難カード」が地域住民を救った事例を紹介することで、地域で連帯して防災に取り組む大切さを呼びかける作品です。ナレーションに起用されている声優・水樹奈々さんは高校受験で東京に向かう際に使った道路が帰りは阪神淡路大震災でなくなっていたという経験があり*1愛媛県出身ということ以外にも起用の理由があるのかなとひっそり思っています。

被災の声を、日々の備えに。 - 九州

 実際に災害に遭った体験談をもとに「やっておけばよかったこと」「やっておいてよかったこと」を共有して災害に備えようというキャンペーンです。新聞広告はテレビCMやラジオCMに収録されていない内容が多めに掲載されており、欠かさず見ておきたいところです。
 ここ数年のACジャパンのキャンペーンの傾向としては防災をテーマにした作品が多く、特に九州地域は積極的にテーマに選定し他地域より一歩進んだ取り組みを行っている印象があります。2019-2020年度は災害に備えるための「備災特設サイト」を開設していました(閉鎖済み)。

おじぃになっても釣りがしたい – 沖縄

 テレビCMにも映る沖縄の海の美しさ。それだけでなく、ごみ拾いをする少年たちの心も美しく撮っているような作品です。ひがりゅうたさんのナレーションが良いですね。他地域のキャンペーンが実在の人物や団体の取り組みを中心に据えているのを見ていたので名前の出ないこの少年たちは実在するのかなと変な勘繰りをしていたのですが、大変失礼しました。

www.asahi.com

 

ACジャパンNHK共同キャンペーン

 ACジャパン制作のCMをNHKで、NHK制作のCMを民放で放映する取り組みです。恥ずかしながら筆者も今回初めて概要を知りました(両者で同じCMが流れていると勘違いしていました)。

おせっかいでいい…

 昨年度の第1弾は、ヤングケアラーの置かれている厳しい日常を淡々と映す「誰も知らない」という作品でした。今年度の第2弾は、そこに気付く周りの人々という視点を加えたことで少しだけ救いのある映像になっています。ただ自助と互助だけで解決できるわけではないので、相談窓口を紹介するなど一歩踏み込むのは共同キャンペーンの枠組みだと難しかったのかなとも思います。NHKでは大阪地域キャンペーンが流れるそうですが、むしろ「おせっかいでいい…」こそNHKで流すべきとも思えてきます。
 NHKの広報動画ページでは第1弾と第2弾の1分版が公開されているのでそちらもご覧あれ。

 

第18回ACジャパン広告学生賞

 学生向け広告コンテストの受賞作品が実際にBS放送や新聞の広告になるという取り組みです。ACジャパンは民間企業と団体によるCSR活動を行う非営利団体ということで、「正会員リスト」記載の会員校(大学、大学院および専門学校)の学生に応募資格があります。
 ところでこのブログを見ている方はジャニーズ事務所所属アイドルのファンが多いと思うのですが、「まいど!ジャーニィ~」(BSフジ)で2020年末から2021年初頭にかけて手書き風の投票呼びかけCMと、ホームビデオ風の乳がん早期発見啓発CMが流れたのを覚えている方はいますか?それが第16回テレビCM部門のグランプリおよび準グランプリ作品です。

聞こえているのに、聞き取れない – テレビCM部門 グランプリ受賞作品

 APD(聴覚情報処理障害)によって社会生活にどのような困難があるのか、個人差はあるとしてもリアルに体感できるような映像に仕上がっています。ステレオ音声で構成したこともあって、テレビ放送ではより臨場感がありそうです。そして視聴者ができることが何か提示するのは昨今の公共広告に多い要素の1つですが、最後の1文はひょっとしてAPDに限定していないのかな、と解釈の余地があるように取れるのも良いところかなと感じました。障害という名前が付いていないとしても、人はそれぞれ異なる感覚を持っている生き物ですし。

充実した1日は充電が減らない – テレビCM部門 準グランプリBS民放賞受賞作品

 第一印象として、オリジナルソングが良い。そして解説文のスマートフォンそのものを否定しないスタンスがまた良い。スマートフォンで撮っているような映像を使って、スマートフォンを操作する瞬間が全く映らない充実した1日を表現するという試みが面白いなと思いました。
 今年度のテレビCM部門のグランプリと準グランプリ、どこか対照的な2作品で興味深いです。

バスの来ないバス停 –新聞広告部門  グランプリ受賞作品 

 朝刊紙のコラム欄のような段組み1段とイラストを大胆に置くことで、文字に目が向きます。この紙面構成の潔さが好きですね。解説文にあるように、認知症当事者と向き合うにあたってのヒントを与えてくれるような広告です。

「ちょっと一緒に」で守れるライフライン – 新聞広告部門 準グランプリ受賞作品

 お年を召した方々の運転免許にまつわる問題を当事者だけの問題にしないこと、当事者以外にもできることがたくさんあることを伝える広告。ドーンと大写しになった田舎の雪景色は、湿気の多い冷たい空気まで感じられるように綺麗に撮れています。
 テレビCM部門に続き、新聞広告部門もグランプリと準グランプリで同じスペースの使い方がここまで違うか、と興味深く感じました。

 

 

 総評としては、災害時など不測の事態にたくさん放映されてもいいようになのか、緊迫感のある表現を用いたキャンペーンはやはり少ないなと感じました。ここ10年前後でACジャパン知名度と注目度は変わってきましたし、それに応じてキャンペーンの表現手法も変えていくのは自然なことですね。

 実は筆者が見たことを覚えている最古の公共広告が2003年度の骨髄バンク支援キャンペーンです。白血病で他界された女優・夏目雅子さんの生前の映像を中心に構成した広告で、筆者の幼少期に再放送されていたテレビドラマ「西遊記」(1978-1980年放送版)で三蔵法師を演じる夏目さんの高潔な佇まいが幼心に印象的だったこともあり、夏目さんの存在を通して公共広告そのものを意識するようになりました。残念ながら筆者は骨髄バンクのドナー登録要件を満たしていないので、先日クレジットカードのポイント枠で募金してきました。こうやって一人一人ができる形の支援を広めていくのが、視聴者にできることでありACジャパンの活動の目的なんですよね。

 ※肩入れが強く見えるかもしれませんが筆者は日本骨髄バンクの関係者ではありません。ドナー登録要件を満たしていないのは処方薬服用中のためで、献血は問題ないことを確認したので可能な限り協力しています。

 

 ACジャパンのキャンペーンは開始翌年の6月30日をもって終了し、7月1日から新年度キャンペーン開始というサイクルをとります。かつては公式アーカイブに動画も載っていたのですが今はサムネイルと解説文の掲載に限定されているため、これら2022年度キャンペーン作品を見られるのは来年6月30日まで。
 できることなら、広告枠がACジャパンに差し変わるような不測の事態が今後起きないまま、2022年度キャンペーンが残り10か月強を完走できることを願っています。

 

 読んでいただき、ありがとうございました!

*1:2021年8月1日放送の「つるぎみゆき エンタメパレード」(ニッポン放送)水樹奈々さんゲスト回より