gzmlhzmkwq7w3の日記

 自分の趣味とか雑感その他を、気が向いた時に書き連ねる予定です。

シンガーソングライター・村下孝蔵さんの楽曲について語りたい

 筆者の大好きなシンガーソングライターの特別な日が、もうすぐやってきます。
 そのひとの名は村下孝蔵

 音楽活動は1999年が最後となってもなお、楽曲を愛する根強いファンを持つ村下さん。
 本格的に日記を書いてから初めて迎える6月24日に向け、筆者が思う村下さんの楽曲の魅力について語っていきたいと思います。

 

 

 ご存じない、というかたでもこの楽曲は聴いたことがあるのではないでしょうか。

初恋

初恋

  • provided courtesy of iTunes

 というのも、筆者が初めて意識して聴いた村下さんの楽曲は『初恋』(1983年)のGOING UNDER GROUNDさんによるカバー版でした。「白いなっちゃん」のCMでこの曲を耳にした時、10代半ばの筆者の心にノスタルジアが巻き起こったのを未だに強く覚えています。
 その後、高校の(確か現代社会の)資料集に『初恋』の歌詞が掲載されているというまさかの遭遇を果たし、大学入学後に村下さんのCDを片っ端から買ったり借りたりしてどっぷりとその世界に浸り、今に至ります。
 まあ思い返せばファーストコンタクトは「白いなっちゃん」ではなく、「中井正広のブラックバラエティ」(日本テレビ系)のBGM だったのですがそれはまた別のお話。

『初恋』は、懐かしの歌謡曲というくくりでテレビ番組でも時々映像が流れることがあります。

 

村下孝蔵楽曲の魅力 その1:歌詞が綺麗

 筆者が個人的に好きな歌詞の中からいくつか引用します。

“愛情以外は何も 僕らの未来を作れない” - 『ロマンスカー』(1992年)

“あなたが好きな私の仕草 自然な私じゃない 見られていると思った時 どこか作っている” - 『アンバランス』(1990年)

“回転扉につかまり何度も振り出しへ びくついた愛情は堂々めぐり” - 『禁じられた遊び』(1989年)

“かけがえのないもの 失くしたあとは どんなに似たものも かわれはしない” - 『ゆうこ』(1982年)

“答えを出さずにいつまでも暮らせない バス通り裏の路地 行き止まりの恋だから” - 『踊り子』(1983年)

“出会うまで歩いてた道も忘れた もう どこへも行けない” - 『だめですか?』(1994年)

“遠い街角で初めに出会って ありふれた恋をしてから結ばれたかった” - 『いいなずけ』(1992年)

“取りかえすことさえ叶わない 命枯れるような想い” - 『珊瑚礁』(1987年)

“夏の夜に魅せられても 何故に星に届かないの” - 『かざぐるま』(1986年)

“めぐり逢った時には 二人子供のようだったのに 愛をなくした後では 誰も大人のふりをする” - 『モ・ザ・イ・ク』(1983年)

 部分的な引用では語り尽くせないのですが、まさしく「行き止まりの恋」を描くことにかけては、右に出る者はいないでしょう。『春雨』(1981年)や 『夢の跡』(1982年)とも迷ったのですが、この2曲は歌詞全体で完成された美しさがあるので引用する場所を選べませんでした。あとあまりに短いので引用しなかったのですが、『アキナ』(1991年)の「手おいの白鳥」という歌詞がすごく好きです。楽曲で描かれている人物像の、隠喩の極致だと思います。

 そして過剰になりすぎない、語り過ぎないところも重要なポイント。筆者は自分の思いを伝えるために知っている言葉を必死に探していくつも重ねがちな人間なのですが、そういう表現ほど相手に伝わらないことって結構あると思うんですね。
 村下さんの楽曲にはサビの前に名詞を並べていく歌詞が時折登場しますが(『恋路海岸』(1989年)や『珊瑚礁』など)、情景を伝えることで心情描写をする繊細さと表現力には脱帽するばかりです。
 その表現力が存分に発揮されていると筆者が思うのが、『結婚式』(1994年)。結婚式を迎えた花嫁の姿をレンズで追いかける主人公の姿を感情表現一切なしに描き切った歌詞が、花嫁と主人公の関係や主人公の感情について、聞く人々の想像をゆっくりと広げてくれる1曲です。

結婚式

結婚式

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 いつかこういう日本語を使いこなせる大人になりたいと思っていたのですが、難しいものです……。

 

 歌詞についてだけで記事1つ書けそうなくらい語りたいのですが、次に移ります。

 

村下孝蔵楽曲の魅力 その2:歌が上手い

 歌手だから歌が上手いなんて当たり前なのですが、一線を画す安定感。筆者が初めて借りたCDがライブ音源集「清聴感謝祭 其の参」だったのですが、CD音源かと思ったくらい安定してお上手でびっくりしました。
 ライブ音源の良いところを挙げると、エコーのかかった歌声でアルバム収録されている楽曲を生の歌声で堪能できることですね。若かりし頃も円熟期も、変わらぬ温かみを感じる美声です。

陽だまり

陽だまり

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↑スタジオアルバム「陽だまり」の『陽だまり』 

陽だまり

陽だまり

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↑ライブアルバム「清聴感謝祭」の『陽だまり』

 

村下孝蔵楽曲の魅力 その3:アレンジが印象的

 自ら編曲を行うことは少なく、編曲の担当は主に水谷公生さん、コーラスアレンジの担当は町支寛二さんでした。
 歌詞やメロディーラインがどこか懐かしい路線を歩んでいたのに対し編曲はシンセサイザーをアクセントにする「ネオフォーク」といった印象で、幻想と郷愁が融合した世界観をしっかり生み出しているのが面白いなと聴くたび思います。そして、時に独特なコーラスアレンジはいろんな楽曲で耳に残ります。『松山行きフェリー』(1980年)のアウトロとか。『禁じられた遊び』なんてもはやメイン級の存在感です。
 イントロが特に良いと思う楽曲を挙げるとすれば、『踊り子』ですね。タッタッタッタッタッタッタララン、という印象的なフレーズが繰り返されるうちハープシコードなど楽器の数がだんだん増えていき、盛り上がったところで歌に入る。あのフレーズ良いなあと漠然と思っていたのですが、ひょっとしてつま先立ちするバレリーナの足の動きを表現するフレーズだったのでは、と最近気づきました。 

踊り子

踊り子

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 村下孝蔵さんといえば他にも、卓越したギターテクニックや楽曲提供の実績などを語るべきなのでしょうが、次に移ります。
(大きな声では言えませんが、ベンチャーズ版の『パイプライン』や『キャラバン』をギター1つで演奏している映像が某所で見つかるかもしれません。)

 

 

どうしても語りたい楽曲:『花れん』(1984年)

 筆者が一番好きな楽曲は『花れん』。いわゆるB面曲なのですが、この楽曲に粋が詰め込まれているため紹介させてください。

花れん

花れん

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 まず、風の音を思わせるようなメロディーで始まるイントロ。AメロではC♯D♯EFF♯G♯Aと1音ずつあがっていくベース音。遠くにいる「あなた」を思う歌なのですが、このどこまで上がっていくんだろうという感覚で、相手が空の上にいるということがなんとなく伝わってくるんですね。そして歌詞は、切なくいじらしい思いを綴った末に「追いかけてゆきたいけれども 何もかもすてたいけれども」という絶句。その先の感情を語らない情緒がすごい。さらにはアウトロのエレキギターが盛り立ててフェードアウトしていく形をとったことで、余韻のなかで世界観に浸れるんですね。

 

どうしても語りたいアルバム:「花ざかり」(1984年)

 ベスト盤や全曲集も発売されているのですが、筆者はオリジナルアルバム派です。というわけで、「これは聴いていただきたい」と思うアルバムを1つ紹介させてください。先述の『花れん』と同年のオリジナルアルバム「花ざかり」です。

花ざかり

花ざかり

1. 『かげふみ』

 印象的なイントロで「花ざかり」の世界に引き込む1曲。大人になってから子供の頃を思い出すという楽曲なので、輪郭のぼんやりした音色に始まり重低音が絡んでメロディーが際立っていくというイントロがまさしく「回想」を表現しているかのようで格好いいんですよ。このイントロを聞くと、個人的には暁の空へ地平線から太陽がゆっくりと現れる様子が思い浮かびます。

2. 『夢のつづき』

 どちらが悪いわけでもないけれど破局を迎えた恋愛の歌。「牡丹色の夏の日」という表現が好きで、当ブログのタイトルに使いたいと思ったこともありました。実はこの楽曲には、村下さんのCDジャケットに何度も起用された村上保さんの切り絵アニメーションPVがあるんですね。楽曲の繊細さに合った美しい仕上がりとなっています。

3. 『北斗七星』

「花ざかり」に収録されている楽曲の中では一際ロマンチックで、どこか湿度のある世界観が特徴です。イントロ・アウトロの耳に残るギターのフレーズといい、2人だけの世界が外へと広がりを見せる様を美しく描いた歌詞といい、シングルカットされていてもおかしくない1曲だと思います。

4. 『似顔絵』

 愛した人への未練を切なく描いた楽曲。回想と現実の境目がどこか曖昧というか夢うつつに表現されているところが、キラキラまったりしたサウンドも相まってより切ない仕上がりになっている気がしました。

5. 『大安吉日』

 この楽曲だけは、歌詞を見る前に一度フルバージョンを聴いてください。丁寧に綴られる歌詞をしみじみ味わっているうちに、1番の最後のフレーズで世界が一気に反転するのを味わっていただきたい。iTunesの試聴でまさにその箇所が使われているのでその点にはご注意を。
 ところで「花ざかり」は当初アナログLPでリリースされていてA面最後の曲がこの『大安吉日』だったわけですが、当時のファンの皆さんはこの曲を聴いた後どのような気持ちでレコード盤をひっくり返していたのだろうと思わずにはいられません。

6. 『少女』

 とにかくレトロで美しい世界観。『ねがい』(1986年)や『おやすみ』(1989年)などのように保護者が子供に向けるような優しい目線も村下孝蔵楽曲にはあるのですが、『少女』は大切な思い出として心に残る風景を描いているように感じられます。この楽曲には好きな表現が多く『夢のつづき』同様に当ブログのタイトルにしたいと思って、実際1つ目の記事を掲載した頃に使用していたことがありました。1週間足らずで止めましたが。

7. 『女優』

 打ち込みかつアップテンポなところが印象に残るアレンジ。歌詞は示唆的な要素が多いのですが、2番の「苺の実を洗ったあと ひとつずつつぶしながら 星占い めぐりあわせ 気にしていた君は」という部分はメロディーラインが「君」の表情まではっきりと映し出すように聞こえていつも背筋がゾクリとします。1990年に発表された『女優'90』というアレンジ版よりも好きです。

8. 『手紙』

「シャランランラン」という明るいコーラスがかわいらしい、でも歌詞はどこか切ない1曲。こうした明るくて切ない楽曲は他にもありまして、「初恋~浅き夢みし~」(1983年)収録の『夢の地図』もこの部類。タイトルと曲調だけでは全く想像できないので、聴いてみてハッとさせられることも多いです。

9. 『とまりぎ』

 目の前にいない愛する人への一途な感情を歌うという意味では『似顔絵』と共通しているのですが、『とまりぎ』は出会いの経緯や生活感のある描写が豊かなだけに喪失感の種類が異なるように感じられます。

10. 『花ざかりの森』

 収録曲10曲の中でも特に文学的で、幽玄を感じる世界観の1曲。三島由紀夫さんの同名小説と何か関係があるのかもしれないと思い、いつか読まねばと心に決めています。

 このアルバムはメジャー3rdアルバムまでのフォーク色の強い流れから『初恋』のヒットを経て、幻想と郷愁が融合した唯一無二の世界観が最も強く表れている作品です。この後の作風の変遷を見ても、ある種の到達点として重要なアルバムに思えてなりません。

 

 

 ここまで長々と語ってきました。

 今の時代ありがたいことにCDやアナログLPを購入する以外にも配信サービスや音源の購入・ダウンロードという手段があるので、筆者の取り留めない文章で村下さんのことを知ったという方でも実際に楽曲に触れるハードルはかなり低くなったはず。

 このような優れた歌人が居たという事実が、この記事を目に留めてくださった方の心に少しでも残れば幸いと、ファンの1人として思っています。

 

 6月24日は脳内出血で他界した村下孝蔵さんの命日で、『初恋』の歌詞と季節にちなみ「五月雨忌」と呼ばれています。

 

 

 読んでいただき、ありがとうございました。